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名古屋地方裁判所 平成4年(ワ)2752号 判決

名古屋市中区栄五丁目八番二八号

原告

株式会社フタバ化学

右代表者代表取締役

志水徹男

右訴訟代理人弁護士

後藤昌弘

右訴訟復代理人弁護士

滝田誠一

右輔佐人弁理士

広江武典

東京都豊島区南大塚二丁目一〇番二号

被告

日本ランウェル株式会社

右代表者代表取締役

山川弘

右訴訟代理人弁護士

中元紘一郎

右渡辺剛

右藤井繁

大阪市中央区伏見町四丁目四番一号

被告

日本コルマー株式会社

右代表者代表取締役

神崎茂

右訴訟代理人弁護士

井上隆晴

右青本悦男

右細見孝二

主文

一  被告日本コルマー株式会社は、原告に対し、四一二万四九一四円及びこれに対する平成六年九月二九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告日本ランウェル株式会社は、原告に対し、六三一万六〇八八円及びこれに対する平成六年九月二九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、別紙謝罪広告目録(二)記載の謝罪広告を、標題並びに原告及び被告の各社名を四号活字とし、その他を六号活字として、朝日新聞(全国版)、中日新聞(本版通し)及び読売新聞(全国版)に各一回掲載せよ。

四  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

六  この判決の第一項及び第二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告らは、別紙物件目録記載の製品を製造し、販売し、又は販売のために展示してはならない。

二  被告日本コルマー株式会社は、原告に対し、五八〇〇万円及びこれに対する平成六年九月二九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告日本ランウェル株式会社は、原告に対し、六〇〇〇万円及びこれに対する平成六年九月二九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告らは、別紙謝罪広告目録(一)記載の謝罪広告を、表題並びに原告及び被告の各社名を四号活字とし、その他を六号活字として、本判決確定の日から三日間日本国内において発行する朝日新聞、中日新聞及び読売新聞に掲載せよ。

第二  事案の概要

一  請求の原因

1  原告は、昭和六一年ころから、アロエエキスを添加した液状石鹸を製造し、「アロエボディソープ」の製品名で販売してきた(以下、この製品を「原告製品」という。)。

2  原告製品の容器の外観は、次のとおりである。

(一) 容器本体は、合成樹脂によって形成され、その色は白味を帯びた緑色である。

(二) 容器本体の正面の形状は、底辺約一四・五センチメートル、上辺約六・五センチメートル、各斜辺約一五センチメートルの、やや縦に長い等脚台形状であり、斜辺がやや膨らみを帯びている。

(三) 容器本体の側面の形状は、底辺約八・五センチメートル、高さ約一五センチメートルの長方形状である。

(四) 容器本体の底面の形状は、ほぼ長方形状であり、四隅は円弧状である。

(五) 容器本体上部には、斜辺部分から高さ約一センチメートルの段差を設け、その上部は、長径約六センチメートル、短径約五センチメートルの長円形状となっている。

(六) 容器本体下部の全周にわたって、高さ約三ミリメートルの突起部が帯状に形成されている。

(七) 容器本体の正面及び背面には、ほぼ半円形状に窪みが形成され、それぞれにシールが貼付されている。

(八) 容器本体の正面に貼付されたシールの色は、黄色がかった明るい緑色であり、上部に図案化されたアロエの絵が印刷され、その下に、「LEAVL」、「ボディソープ」、「アロエ」、「BODYSOAP」、「全身洗浄料」という文字が印刷され、さらにその下に、「うるおい成分アロエエキス配合」、「素肌いきいき、しっとりさわやか」という文字が印刷されている。

(九) 頂部に白色の蓋兼ポンプが形成されている。

3(一)  原告は、原告製品を、旅館、ホテル、公共宿泊施設、ゴルフ場等(以下「宿泊施設等」という。)に販売し、そこで原告製品を宿泊施設等の利用者に使用してもらい、原告製品を使用した利用者に宿泊施設等の売店で販売するという方式をとってきた。原告は、宿泊施設等の売店で原告製品を購入した者から、原告製品に同封してある葉書で注文があった場合には、注文者に対して、原告製品を販売するが、一般の小売店等では、原則として、原告製品を販売していない。

また、原告は、原告製品の宣伝活動も、宿泊施設等に限定して、集中的に行ってきた。

(二)  原告製品は、従来宿泊施設等で使用されていた固形石鹸に比べ、宿泊施設等の利用者に対して清潔感を与える上、半ば溶けかけた石鹸が浴場のタイルの目地を汚すといったことがないという大きな利点がある。また、原告製品は、使用感も極めて良好である。

右のようなことや原告の宣伝活動により、原告製品の売上実績は伸び、平成二年の年間販売数量は、約一二〇万本になった。同年秋には、原告製品は、全国約四〇〇〇軒の旅館、ホテルで使用されるようになり、ゴルフ場でも広く使用されるようになった。また、一般消費者にも、宿泊施設等の売店や直接注文を通して、多くの原告製品が販売された。

(三)  以上のようなことにより、遅くとも平成二年秋には、右2の原告製品の容器は、原告の商品であることを表示するものとして、宿泊施設等の経営者のみならず、一般消費者の間でも、広く知られるようになった。

4  被告日本コルマー株式会社(以下「被告日本コルマー」という。)は、平成四年五月ころから、別紙物件目録記載の液状石鹸(以下「被告製品」という。)の製造販売を始め、現在も製造販売している。また、被告日本ランウェル株式会社(以下「被告日本ランウェル」という。)は、平成四年四月ころから、被告製品の販売を始め、現在も製造販売している。

5  被告製品の容器の外観は、次のとおりである。

(一) 容器本体は、合成樹脂によって形成され、その色は白味を帯びた緑色である。

(二) 容器本体の正面の形状は、底辺約一四・五センチメートル、上辺約六・五センチメートル、各斜辺約一六センチメートルの、やや縦に長い等脚台形状であり、斜辺がやや膨らみを帯びている。

(三) 容器本体の側面の形状は、底辺約八・三センチメートル、高さ約一六・五センチメートルの長方形状である。

(四) 容器本体の底面の形状は、ほぼ長方形状であり、四隅は円弧状である。

(五) 容器本体の上部が鍔状に膨出しており、この部分に、長さ二センチメートルにわたって複数の縦線が形成されている。そして、右鍔状部分の上面は、長径約六センチメートル、短径約五センチメートルの長円形状となっている。

(六) 容器本体下部の全周にわたって、高さ約二ミリメートルの突起部が帯状に形成されている。

(七) 容器本体の正面及び背面に、ほぼ半円形状に窪みが形成され、それぞれにシールが貼付されている。

(八) 容器本体の正面に貼付されたシールの色は、黄色がかった明るい緑色であり、上部に図案化されたアロエの絵が印刷され、その下に、「湯の友」、「アロエ」、「自然派」、「BODYSOAP」、「ボディ洗浄料」という文字が印刷され、さらにその下に、「保温成分アロエエキス配合」という文字が印刷されている。

(九) 頂部に白色の蓋兼ポンプが形成されている。

6  原告製品の容器の外観と被告製品の容器の外観を比較すると、細部では違いがある部分があるものの、その差はわずかであり、酷似している。被告らが被告製品を製造販売する行為は、一般消費者をして、原告製品と混同を生じさせる行為であるということができる。

7  したがって、被告らが被告製品を製造販売する行為は、不正競争行為であり、この行為によって、原告は、営業上の利益を侵害された。

8  被告らは、故意又は過失によって右不正競争行為を行い、原告の営業上の利益を侵害したのであるから、原告が被った損害を賠償する責任があるところ、その損害額は、次のとおりである。

(一) 被告日本コルマーは、平成四年五月ころから、被告製品を、少なくとも月平均一万本製造販売し、一本当たり少なくとも二〇〇円の利益を得ているから、同被告は、平成四年五月ころから平成六年九月二八日までの間に、少なくとも五八〇〇万円の利益を得た。

(二) 被告日本ランウェルは、平成四年四月ころから、被告製品を、少なくとも月平均一万本販売し、一本当たり少なくとも二〇〇円の利益を得ているから、同被告は、平成四年四月ころから平成六年九月二八日までの間に、少なくとも六〇〇〇万円の利益を得た。

(三) 右の被告らが得た利益の額は、原告が右の期間に受けた損害の額と推定される。

9  被告らは、被告製品を、一般の小売店等において、原告製品よりも非常に廉価に販売しており、一般消費者には、原告製品が、一般の小売店等において、非常に廉価で販売されているとの印象を与える。このことは、右3(一)のような方法で原告製品を買い受けた一般消費者に対して不信感を抱かせる上、宿泊施設等の経営者にも、重大な背信行為であると誤解されかねない。

また、被告製品は、品質においても、原告製品よりも粗悪である。

したがって、原告は、被告らの右不正競争行為によって信用を毀損されたものというべきであり、それを回復するためには、謝罪広告によるほかない。

10  よって、原告は、不正競争防止法三条一項に基づき、被告らに対し、被告製品を製造し、販売し、又は販売のために展示することの差止めを求めるとともに、同法四条に基づき、被告日本コルマーに対しては、右損害金五八〇〇万円及びこれに対する不法行為の結果発生後である平成六年九月二九日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うことを、被告日本ランウェルに対しては、右損害金六〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の結果発生後である平成六年九月二九日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。また、原告は、同法七条に基づき、被告らに対し、別紙謝罪広告目録(一)記載の謝罪広告を、表題並びに原告及び被告の各社名を四号活字とし、その他を六号活字として、本判決確定の日から三日間日本国内において発行する朝日新聞、中日新聞及び読売新聞に掲載することを求める。

二  請求原因に対する認否及び反論(被告日本ランウェル)

1  1の事実は認める。

2  2の事実については、後記6のとおり。

3  3の事実のうち、(一)及び(二)は知らない。(三)は否認する。

(一) 原告が原告製品の容器の外観の特徴として主張する多くの点は、ボディソープであれば、その機能を果たすために必然的に備えなければならないものである。すなわち、ボディソープ、特に一二〇〇cc、一三〇.〇ccといった容量のものは、重量があり、滑りやすい浴室に置くものであるから、下部が上部に比べて大きいものにならざるを得ず、また、浴室に置く関係上、角のない丸みを帯びたものにならざるを得ない。さらに、浴室のボディソープ等を置く台は概して細長いものであるため、容器はやや薄いものとする必要があり、底の形は、偏平のものにならざるを得ない。

このように商品がその機能を果たすために必然的に備えている形態は、不正競争防止法の「商品表示」ということはできない。

(二) 原告製品は、旅館、ホテル等を中心に販売されており、一般の小売店では販売されていないから、原告製品の容器の外観の形状が、一般消費者に対し、周知性を獲得するということはない。

4  4の事実のうち、被告日本ランウェルが被告製品を販売していたことは認め、

その開始時期及び現在も被告製品を販売していることは否認する。

被告日本ランウェルは、平成四年一二月に被告製品の販売を中止した。

5  5の事実については、後記6のとおり。

6  6及び7は争う。

(一) 次のとおり、原告製品の容器と被告製品の容器は類似していない。

〈1〉 容器本体は、原告製品も被告製品も合成樹脂によって形成されているが、ボディシャンプーにおいて容器に合成樹脂を使用することは、当然のことである。容器本体の色は、原告製品も被告製品も緑色であるが、被告製品の方が色が薄い。緑色は、アロエ関連商品の基本色であり、原被告以外の他社の製品も緑色を使用している。また、右3(一)のとおり、原告製品の容器の形状は、機能に由来するものである。

〈2〉 原告製品と被告製品では、容器本体の高さにかなりの相違がある。また、原告製品の容器本体は三角形に近いおむすび型であるが、被告製品の容器本体は四角っぽい形状である。さらに、被告製品では、容器本体の上部がくびれており、この部分に縦に線状の突起が形成されているが、原告製品では、このようなくびれはない。被告製品の右のくびれは、浴室等において持ち上げやすいように付けたもので、被告製品の最大の特徴となっている。

〈3〉 容器本体の側面は、原告製品は曲面のみで構成されているが、被告製品は、平面を使用している。

〈4〉 容器本体の底面の形状は、原告製品は楕円形又は小判形であるが、被告製品は長方形である。また、容器本体の底面の帯状の部分は、原告製品は厚みがあって丸みを持った帯であるが、被告製品は平たい帯である。

〈5〉 原告製品も被告製品も容器本体下部に突起部があるが、原告製品が旅館等の浴場に置かれているときは、右突起部はケース内にあるから、突起部は見えない。したがって、原告製品の右突起部に一般消費者が注目することはない。

〈6〉 原告製品も被告製品も、容器本体の正面及び背面に窪みが形成され、それそれにシールが貼付されているが、窪みの形状は、原告製品においては上部がかなり平坦であるのに対し、被告製品においては、すべて曲線で形成されている。

〈7〉 原告製品も被告製品も、容器本体の正面に貼付されたシールの色は、黄色がかった明るい緑色であるが、描かれているアロエの絵が異なるし、印刷されている文字も異なる(なお、印刷されている文字は原告主張のとおりである。)。「BODYSOAP」という文字は、原告製品にも被告製品にも印刷されているが、ボディソープは、一般名称である上、原告製品の「BODYSOAP」に特別な書体が用いられているということもない。また、原告製品に印刷されている文字は、「LEAVL」を除いては、アロエ入りのボディソープであることやその使用感を表示したものにすぎず、それらが、商品の出所を表示するものとして注目されることはない。

原告製品の容器本体の背面に貼付されたシールには、商品の出所を表示するものとしては、「リーブルボディソープ」と小さく印刷されているにすぎないのに対し、被告製品では、容器本体の裏面に貼付されたシールに、薄緑色の山型の枠に囲まれた中に、商品の出所を表示するものとして、「湯の友」の文字が大きく印刷されている。

〈8〉 原告製品も被告製品も、頂部に白色の蓋兼ポンプが形成されているが、原告製品の蓋兼ポンプは、頭が曲面状に盛り上がっているのに対し、被告製品の蓋兼ポンプは、頭が平坦であるという違いがある。この蓋兼ポンプは、既製品であり、多くの製品に似たものが使用されている。

(二) 原告製品は、旅館、ホテル等を中心に販売されていたのに対し、被告製品は、一般の小売店を通じて販売されていたものであり、価格も大きく異なる。

(三) 被告製品は箱に入れて販売されていたところ、原告製品の包装箱と被告製品の包装箱は、次のとおり異なっている。

〈1〉 原告製品の包装箱の色は濃い緑色で、上部に黒色の横帯があるのに対し、被告製品の包装箱の色は薄い緑色で、上部に濃緑色の横帯がある。

〈2〉 原告製品の包装箱の正面には、アロエの絵と「お肌すべすべ」、「BODYSOAP」、「LEAVL」という文字が印刷されているのに対し、被告製品では、包装箱の正面に半円形の窓が開けられており、そこから被告製品本体の容器のシールを見ることができるようになっている。そのシールには、原告製品とは異なるアロエの絵と「湯の友」、「アロエ」、「自然派」、「BODYSOAP」という文字が印刷されている。

〈3〉 原告製品の包装箱の背面には、円形の窓が開けられ、「LEAVL」とい文字が印刷されているのに対し、被告製品の包装箱の背面には窓はなく、「湯の友 ボディソープ」という文字と被告らの会社名が印刷されている。

〈4〉 原告製品の包装箱の側面には、「リーブル」という文字が、太く黒い文字で印刷され、その下に原告製品の包装箱の表面と同じアロエの絵が印刷されているのに対し、被告製品の包装箱の側面には、被告製品本体のシールと同じアロエの絵と「湯の友」、「ボディソープ」という文字が緑色で印刷されている。

〈5〉 包装箱の形状は、原告製品よりも被告製品の方が細長い。

(四) 以上のようなことからすると、一般消費者が原告製品と被告製品の出所を誤認混同することはない。

7  8((一)を除く。)の事実は否認し、主張は争う。

原告製品は、旅館、ホテル等を中心に販売されていたのに対し、被告製品は、一般の小売店を通じて販売されていたから、対象とする市場が異なる。したがって、被告が得た利益の額をもって原告が受けた損害の額と推定することはできない。、

8  9の事実は否認し、主張は争う。

9  10は争う。

三  請求原因に対する認否及び反論(被告日本コルマー)

1  1の事実のうち、原告が液状石鹸を製造販売していることは認め、その余は知らない。

2  2の事実については、後記6のとおり。

3  3の事実のうち、(一)、(二)は知らない。(三)は否認する。

原告製品の容器の外観が「商品表示」とはいえないこと及びその周知性については、右二3(一)、(二)と同じ。

4  4の事実のうち、被告日本コルマーが被告製品を製造販売していたことは、認め、その開始時期及び現在も被告製品を製造販売していることは、否認する。

被告日本コルマーは、平成四年一二月に被告製品の製造販売を中止した。

5  5の事実のうち、数値以外は認め、数値は否認する。

6  6及び7は争う。

原告製品の容器と被告製品の容器の類似性及び原告製品と被告製品の出所に誤認混同が生じないことについては、右二6(一)ないし(四)と同じ。

7  8((二)を除く。)の事実は否認し、主張は争う。

被告が得た利益の額をもって原告が受けた損害の額と推定することができないことについては、右二7と同じ。

8  9の事実は否認し、主張は争う。

9  10は争う。

四  原告の反論

1  原告製品の容器の形状が機能に由来する旨の主張(右二3(一)及び三3)について

浴室で使用される液体石鹸の容器の形状には、機能的な制約はない。現に、原告製品や被告製品とは異なる様々な形状の容器に入った液体石鹸が販売されている。

2  被告製品が箱に入れて販売されていた旨の主張(右二6(三)及び三6)について被告製品が箱に入れて販売されているということはない。

3  原告製品は、旅館、ホテル等を中心に販売されていたのに対し、被告製品は、一般の小売店で販売されていたから、誤認混同は生じないし、被告が得た利益の額をもって原告が受けた損害の額と推定することはできない旨の主張(右二6(二)、二7、三6及び三7)について

原告は、請求原因3記載のとおり、一般消費者を対象として、多くの原告製品を販売してきたから、原告製品が一般の小売店で販売されていないとしても、一般消費者が、原告製品と被告製品を誤認混同するおそれがあり、現に誤認混同が生じている。

右のとおり誤認混同が生じるのであるから、被告らが得た利益の額をもって原告が受けた損害の額と推定することができるというべきである。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第四  当裁判所の判断

一  原告と被告日本ランウェルとの間においては、請求原因1(原告製品の製造販売)の事実は争いがない。原告と被告日本コルマーとの間においては、同事実のうち原告が液状石鹸を製造販売していることは当事者間に争いがなく、その余の事実は、証拠(甲二、三)と弁論の全趣旨により認められる。

二  請求原因2(原告製品の容器の外観)について

証拠(甲一、検乙二の二)と弁論の全趣旨によると、原告製品の容器は、次のようなものであることが認められる。

1  容器本体は、合成樹脂によって形成され、その色は緑色である。

2  容器本体の正面の形状は、底辺約一四・五センチメートル、上辺約六・五センチメートル、各斜辺約一五センチメートルの、やや縦に長い等脚台形状であり、斜辺が膨らみを帯びている。

3  容器本体の側面は、底辺約八・五センチメートル、高さ約一五センチメートルの長方形状で、全体が丸みを帯びている。

4  容器本体の底面の形状は、小判形で、直線部分と円弧状の部分からなる。底面の外周の内側に帯状の部分があり、その部分はやや丸みを帯びている。

5  容器本体上部には、斜辺部分から高さ約一センチメートルの段差を設け、その上部は、長径約六センチメートル、短径約五センチメートルの長円形状となっている。

6  容器本体下部の全周にわたって、高さ約三ミリメートルの突起部が帯状に形成されている。

7  容器本体の正面及び背面には、上部が平坦なほぼ半円形状の窪みが形成され、それぞれに、ほぼ半円形状のシールが貼付されている。

8  容器本体の正面に貼付されたシールの色は、黄色がかった明るい緑色であり、上部に図案化された六枚の葉があるアロエの絵が印刷され、その下に、「LEAVL」、「ボディソープ」、「アロエ」、「BODYSOAP」、「全身洗浄料」という文字が印刷され、さらにその下に、「うるおい成分アロエエキス配合」、「素肌いきいき、しっとりさわやか」という文字が印刷されている。これらの文字の中では、「BODYSOAP」という文字が特に大きい。

9  頂部に白色の蓋兼ポンプが形成されている。

三  請求原因3(原告製品の周知性等)について

1  証拠(甲二ないし一三、二七、甲二八の一ないし九、甲二九の一ないし八、甲三〇、三七、乙一四、二一、証人志水干博)と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一) 原告は、原告製品の販売を開始して以来、原告製品を、宿泊施設等に販売し、そこで原告製品を宿泊施設等の利用者に使用してもらい、原告製品を使用した利用者に宿泊施設等の売店で販売するという方式をとってきた。

原告は、宿泊施設等の売店で原告製品を購入した者から、原告製品に同封してある葉書で注文があった場合には、注文者に対して、原告製品を販売している。

しかし、原告は、一般の小売店では、原則として、原告製品を販売していない。

(二) 原告の従業員が、宿泊施設等の経営者を対象として、原告製品の営業活動を行うとともに、原告は、雑誌等において、宿泊施設等の経営者を対象として、原告製品の広告宣伝を行ってきた。また、原告は、宿泊施設等において、ポスター等により、宿泊施設等の利用者に対して、原告製品の広告宣伝を行ってきた。

(三) 原告製品は、従来宿泊施設等で使用されていた固形石鹸に比べ、宿泊施設等の利用者に対して清潔感を与える上、半ば溶けかけた石鹸が浴場のタイルの目地を汚すことがないため、そのような汚れをとるための清掃が不要であるという利点がある。また、原告製品は、使用感が良く、品質的にも優れたものである。

(四) 右(二)の営業活動や広告宣伝活動と右(三)の利点があることにより、原告製品の売上げは、急速に伸び、平成二年の年間販売数量は、約二二〇万本になった。同年秋には、原告製品は、全国約四〇〇〇軒の旅館、ホテルで使用されるようになり、ゴルフ場等でも使用されるようになった。

また、原告製品は、平成三年には、売上げはますます伸び、同種製品中、全国で第三位の約一〇パーセントのシェアを占めるに至った。

(五) 平成四年ころまでは、原告製品の販売は、宿泊施設等に対する業務用が主流で、売上げの約八割を占めていた。

2  右1認定の事実によると、原告製品は、原告の営業活動や広告宣伝活動と製品が持つ利点により、急速に売上げを伸ばし、平成三年には、同種製品中、全国で第三位の約一〇パーセントのシェアを占めるに至ったものと認められる。

もっとも、右1認定のとおり、当時の原告製品の販売は、宿泊施設等に対する業務用が主流であったが、原告は、宿泊施設等の利用者を中心とする一般消費者に対しても、宿泊施設等の売店や直接注文を通して、原告製品の販売をしており、宿泊施設等においては、原告製品の宣伝もしていたものと認められ、その販売量も、平成二年においては、右1認定の一二〇万本の約二割が一般消費者に対して販売されていたものと認められるから、その数は約二四万本となり、平成三年には、その数は、更に多かったものと認められる。

以上述べたところを総合すると、遅くとも平成三年末ころまでには、原告製品は、宿泊施設等の経営者のみならず、宿泊施設等の利用者の間でも、広く知られるようになっていたものと認められる。

3  証拠(甲三七、証人志水千博)と弁論の全趣旨によると、右二認定の原告製品の容器の形状は、原告独自の形状で、平成三年から四年にかけて、これと似た容器の形状を有する他社の製品が出回るようになるまでは、これと似た容器の形状を有する同種の製品は存しなかったことが認められる。そして、この事実に右2認定の原告製品が広く知られるようになった事実を総合すると、右二認定の原告製品の容器は、遅くとも平成三年末ころまでには、宿泊施設等の経営者のみならず、宿泊施設等の利用者の間でも、原告の商品を表示するものとして、広く知られるようになっていたものと認められる。

4  なお、被告らは、原告製品の容器の形状は、その機能を果たすために必然的に備えなければならないものである旨主張する。

確かに、この種の製品は、浴室に置くものであるから、滑りにくくする必要があるが、そうであるからといって、下部が上部に比べて大きいものとしなければならない必然性はなく、また、浴室に置くものであるからといって、角のない丸みを帯びたものにしなければならない必然性もない。さらに、被告らは、浴室のボディソープ等を置く台は概して細長いものである旨主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はないから、容器をやや薄いものとする必要があるとも認められない。

かえって、証拠(乙二、検乙三ないし五の各二、検乙六)によると、同種製品の容器には、下部が上部に比べてそれほど大きくないもの、角のあるもの、容器に厚みのあるものなどがあることが認められる。

以上述べたところからすると、被告らの右主張は採用することができない。

四  請求原因4(被告製品の製造販売)について

1  被告日本コルマーが被告製品の製造販売をしていたことは、原告と被告日本コルマーの間において争いがない。証拠(甲三四、三五、証人神崎友次)と弁論の全趣旨によると、被告日本コルマーが被告製品の製造販売を開始した時期は、平成四年三月ころであること、被告日本コルマーが製造した被告製品は、すべて被告日本ランウェルに販売していたこと、以上の各事実が認められる。

2  被告日本ランウェルが被告製品の販売をしていたことは、原告と被告日本ランウェルの間において争いがない。証拠(甲三四、三五、被告日本ランウェル代表者(第一回、二回))と弁論の全趣旨によると、被告日本ランウェルが、被告日本コルマーから被告製品を買い受けて、これを販売するようになった時期は、平成四年四月ころであることが認められる。

3  証拠(乙七、八、乙九の一ないし六、乙一八、二二、検九の二、証人神崎友次、被告日本ランウェル代表者(第一、二回))によると、被告日本コルマーは、平成四年一二月に被告製品の製造販売を中止し、その後、被告製品の製造に使用していた金型を廃棄したこと、被告日本コルマーは、平成五年一月から、被告製品の容器の外観を変更した商品を製造し、被告日本ランウェルに販売していること、被告日本ランウェルは、平成四年一二月に被告製品の販売を中止し、平成五年一月から、容器の外観を変更した右商品を販売していること、以上の各事実が認められる。

なお、証拠(甲三一ないし三三、三九)と弁論の全趣旨によると、平成五年六月に発行された神戸生協とハリマ生協の共同購入のチラシ及び平成五年一二月に発行された「クスリの清水」の広告には、被告製品の写真が掲載されていることが認められる。しかし、証拠(乙一一、被告日本ランウェル代表者(第二回))によると、実際に販売しているのは容器の外観を変更した新製品であっても、小売店等の手違いで、被告製品の写真が広告等に掲載されることがあること、神戸生協が平成五年六月に実際に販売していたのは、容器の外観を変更した新製品であったこと、以上の各事実が認められるから、右の被告製品の写真が掲載されていた事実は、いまだ被告らが被告製品の製造販売を中止したとの右認定を覆すに足りるものではない。

五  請求原因5(被告製品の容器の外観)について

請求原因5の事実のうち数値以外は、原告と被告日本コルマーの間において争いがなく、この争いがない事実に証拠(甲一、乙二、検乙一、二の各二)と弁論の全趣旨を総合すると、被告製品の容器は、次のようなものであることが認められる。

1  容器本体は、合成樹脂によって形成され、その色は緑色である。原告製品よりは、緑色の色が若干薄い。

2  容器本体の正面の形状は、底辺約一四・五センチメートル、上辺約六・五センチメートル、各斜辺約一六センチメートルの、やや縦に長い等脚台形状であり、斜辺が膨らみを帯びている。斜辺の膨らみの形状は、原告製品とは若干異なる。

3  容器本体の側面の形状は、底辺約八・三センチメートル、高さ約一六・五センチメートルの長方形状であり、側面の一部は平面になっている。

4  容器本体の底面の形状は、ほぼ長方形状であり、四隅は円弧状である。底面の外周の内側に帯状の部分があり、その部分は平面である。

5  容器本体の上部が鍔状に膨出しており、この部分に、長さ二センチメートルにわたって複数の縦線が形成されている。そして、右鍔状部分の上面は、長径約六センチメートル、短径約五センチメートルの長円形状となっている。

6  容器本体下部の全周にわたって、高さ約二ミリメートルの突起部が帯状に形成されている。

7  容器本体の正面及び背面に、ほぼ半円形状に窪みが形成され、それぞれにほぼ半円形状のシールが貼付されている。

8  容器本体の正面に貼付されたシールの色は、黄色がかった明るい緑色であり、上部に図案化された五枚の葉があるアロエの絵が印刷され、その下に、「湯の友」、「アロエ」、「自然派」、「BODYSOAP」、「ボディ洗浄料」という文字が印刷され、さらにその下に、「保温成分アロエエキス配合」という文字が印刷されている。これらの文字の中では、「BODYSOAP」という文字が特に大きく、その書体及び大きさは原告製品と全く同じである。

9  頂部に白色の蓋兼ポンプが形成されている。

六  請求原因6(原告製品の容器と被告製品の容器の類似性等)について

1  右二、五認定の各事実に基づき、原告製品の容器と被告製品の容器の外観を比較すると、次のようにいうことができる。

(一) 原告製品の容器と被告製品の容器の容器本体は、ともに合成樹脂製で、色は、緑色であり、正面の形状も、斜辺の膨らみの形状が若干異なるものの、斜辺が膨らみを帯びた、やや縦に長い等脚台形状であることは共通している。

証拠(乙二、検乙一、二の各二)によると、被告製品の容器の方が原告製品の容器よりも、容器本体の高さが高いことが認められるが、証拠(検乙一、二の各二)によると、その差は、わずかなもので、原告製品と被告製品を別々に見た場合には、わからない程度の差であることが認められる。

(二) 容器本体の側面の形状は、原告製品の容器も被告製品の容器も、長方形状である。被告製品は、側面の一部が平面になっていることが、原告製品と異なるが、証拠(甲一、乙二、検乙一、二の各二)によると、この点は、注意深く見ない限り違いがわからないものであることが認められる。

(三) 容器本体の底面の形状は、原告製品の容器と被告製品の容器では異なる点があるが、一般消費者がこの種の商品を購入する際に底面までも見て購入するとは通常考えられないから、この点は、類似性の判断に当たって重視すべきではない。

(四) 被告製品の容器では、容器本体の上部が鍔状に膨出しており、この部分に、長さ二センチメートルにわたって複数の縦線が形成されているところ、原告製品には、この部分はない。

被告らは、被告製品の右の部分は、浴室等において持ち上げやすいように付けたもので、被告製品の最大の特徴となっていると主張するが、証拠(甲一、乙二、検乙一、二の各二)によると、原告製品の容器と被告製品の容器の外観を比べた場合には、被告製品の方が容器本体の上部がいくらか高くなっているという印象を与えるにすぎないものと認められるから、原告製品の容器と被告製品の容器の外観に決定的な違いをもたらすものということはできない。

(五) 原告製品の容器も被告製品の容器も、容器本体下部の全周にわたって、突起部が帯状に形成されている。その高さには、若干の差があるが、証拠(甲一、乙二、検乙一、二の各二)によると、その差は、原告製品と被告製品を別々に見た場合には、わからない程度のものであることが認められる。

被告らは、原告製品が旅館等の浴場に置かれているときは、右突起部はケース内にあるから、突起部は見えず、一般消費者が原告製品の右突起部に注目することはない旨の主張をする。しかし、証拠(甲二、三)と弁論の全趣旨によると、宿泊施設等の売店では、原告製品の右突起部が見えるように陳列されていること、宿泊施設等の売店で購入した一般消費者が家庭で使用する場合には、通常右突起部をケースに入れるような形では使用しないこと、以上の各事実が認められるから、必ずしも一般消費者が原告製品の右突起部に注目しないということはできない。

(六) 原告製品の容器も被告製品の容器も、容器本体の正面及び背面に、ほぼ半円形状に窪みが形成され、それぞれにほぼ半円形状のシールが貼付されている。

原告製品の容器の窪みは上部が平坦になっており、被告製品の容器とは異なるが、証拠(甲一、乙二、検乙一、二の各二)によると、この点は、注意深く見ない限り見過ごす可能性が高いものであることが認められる。

(七) 容器本体の正面に貼付されたシールの色は、原告製品の容器も被告製品の容器も、黄色がかった明るい緑色であり、ほぼ同じ色である。

シール上部の図案化されたアロエの絵は、原告製品の容器では葉が六枚であるのに対し、被告製品の容器では葉が五枚であるとの違いがあるが、全体としては、アロエの絵であるという点において共通している。

シールに印刷されている文字は、原告製品の容器と被告製品の容器では、必ずしも同じではないが、これらの文字の中では、「BODYSOAP」という文字が特に大きく、また、その書体、文字の大きさ及びシール中の位置は、原告製品と被告製品では全く同じであるから、これらの点は、原告製品の容器と被告製品の容器の類似性を判断するに当たって、重視すべきである。なお、被告らは、ボディソープは一般名称であり、原告製品の「BODYSOAP」に特別な書体が用いられていないと主張するが、そうであるとしても、右のとおり、「BODYSOAP」の文字が特に大きく、書体等も原告製品の容器と被告製品の容器では全く同一であることからすると、「BODYSOAP」の文字は、原告製品の容器と被告製品の容器の類似性を判断するに当たって、重視すべきである。

(八) 証拠(甲一、乙二、検乙一、二の各二)によると、原告製品の容器と被告製品の容器では、容器本体の背面に貼付されたシールに印刷された文字やシールの一部の色が異なることが認められるが、一般消費者がこの種の商品を購入する際には、容器本体の背面に注目するとは考えられないから、この点は、類似性の判断に当たって重視すべきではない。

(九) 原告製品の容器も被告製品の容器も、頂部に白色の蓋兼ポンプが形成されており、証拠(甲一、乙二、検乙一、二の各二)によると、原告製品の蓋兼ポンプと被告製品の蓋兼ポンプでは、それに被せるキャップの形状が一部異なるほかは、ほぼ同じであることが認められる。

2  右1で述べたところからすると、原告製品の容器と被告製品の容器は、細部に違いはあるものの、全体としては、類似しているということができる。

なお、証拠(乙一、二、検乙三ないし五の各二、検乙六、検乙七の一ないし四、被告日本ランウェル代表者(第一回))と弁論の全趣旨によると、原告製品や被告製品のような液体石鹸にあっては、合成樹脂製の容器が一般に用いられていること、アロエ関連の商品においては、緑色の容器が用いられることが多いこと、原告製品や被告製品に用いられている蓋兼ポンプと同種のものが、他の液体石鹸においても用いられていること、以上の各事実が認められるが、右の原告製品の容器と被告製品の容器が類似しているとの認定は、これらの点のみならず、容器本体の形状(これが機能に由来するものでないことは右三4のとおりである。)や容器本体に貼付されたシールの色及び記載内容などを総合した上で、類似しているとの認定をしたものであるから、右のとおり他の商品にも用いられている点があるとしても、右の類似性に関する認定を左右するものではない。

3  右二1、2認定のとおり、原告製品は、宿泊施設等の売店において一般消費者に対して販売されているほか、そこで買い受けた者からの注文によっても、一般消費者に対して販売されているが、一般の小売店においては、原則として販売されていないものと認められる。また、証拠(証人志水千博)と弁論の全趣旨によると、原告製品は、通常一本二七〇〇円で販売されていることが認められる。

一方、証拠(証人神崎友次、被告日本ランウェル代表者(第一回、二回))によると、被告製品は、一般の小売店において、販売されていたものと認められる。また、証拠(甲一四、甲一五の一、二、甲一九、二四ないし二六、乙六の二、丙一)によると、被告製品の価格は、小売店によって異なるが、おおむね一〇〇〇円台であることが認められる。

このように、原告製品と被告製品は、販売方法や価格が異なるのであるが、販売対象者は一般消費者という点で共通しており、価格の差も、一般消費者が別の商品であると考える程の大きな差ではないから、宿泊施設等において原告製品を見たり購入したりした者が、容器の外観が類似する被告製品を、原告製品であると考え、誤って購入することが十分に考えられる。したがって、一般消費者が、原告製品と被告製品を誤認混同するおそれがあるものというべきであり、証拠(甲一六ないし一八、二〇ないし二三、証人志水千博)によると、現に、消費者が、原告製品と被告製品を誤認混同した例があったものと認められる。

4  被告らは、被告製品は、箱に入れて販売されているところ、原告製品の包装箱と被告製品の包装箱は異なっているので、誤認混同が生じることはない旨主張するが、この主張は、次のとおり採用できない。

(一) 証拠(甲一四、甲一五の一、二、甲一九、二四ないし二六、乙六の一ないし四)によると、小売店が行う被告製品の広告においては、被告製品の容器の写真が掲載されており、包装箱に入った状態では掲載されていないこと、小売店において、被告製品を展示する際には、包装箱に入ったまま展示されることもあるが、包装箱から出して、被告製品の容器が見える状態で展示されることもあること、以上の各事実が認められる。このように、包装箱から出して、被告製品の容器が見える状態で広告や展示が行われている以上、一般消費者が、原告製品とこれと容器の外観が類似する被告製品を誤認混同するおそれがあるものというべきである。

(二)〈1〉 証拠(甲一、二、乙二、検乙一、二の各一、二)と弁論の全趣旨によると、原告製品の包装箱と被告製品の包装箱は、次のとおりであることが認められる。

ア 原告製品の包装箱の色は濃い緑色で、上部に黒色の横帯がある。原告製品の包装箱を上から見ると、半分が濃い緑色、半分が黒色である。これに対し、被告製品の包装箱の色は薄い緑色で、上部に濃緑色の横帯がある。被告製品の包装箱を上から見ると、半分が薄い緑色、半分が濃緑色である。

イ 原告製品の包装箱の正面には、原告製品の容器本体のシールと同じアロエの絵と「お肌すべすべ」、「BODYSOAP」、「LEAVL」という文字が印刷されている。これに対し、被告製品では、包装箱の正面に半円形の窓が開けられており、そこから被告製品の容器本体のシールを見ることができるようになっている。そのシールには、アロエの絵と「湯の友」、「アロエ」、「自然派」、「BODYSOAP」という文字が印刷されている。原告製品の包装箱正面の「BODYSOAP」の文字と被告製品の容器本体のシールの「BODYSOAP」の文字は、同一の書体である。

ウ 原告製品の包装箱の背面には、円形の窓が開けられ、そこから、原告製品の容器本体のシールの「ボディソープ」という文字が見えるようになっている。また、原告製品の包装箱の背面の下部には、「LEAVL」という文字が印刷されている。これに対し、被告製品の包装箱の背面には窓はなく、「湯の友 ボディソープ」という文字と被告らの会社名が印刷されている。

エ 原告製品の包装箱の側面には、「リーブル」という文字が太く黒い文字で印刷され、その下に、原告製品の容器本体のシールと同じアロエの絵が印刷されている。これに対し、被告製品の包装箱の側面には、被告製品の容器本体のシールと同じアロエの絵と「湯の友」、「ボディソープ」という文字が緑色で印刷されている。

オ 包装箱の形状は、原告製品よりも被告製品の方がやや細長いものの、ほぼ同じ大きさである。

〈2〉 右〈1〉認定の事実によると、原告製品の包装箱と被告製品の包装箱を比較した場合、包装箱の上部に包装箱の色よりも濃い色の横帯があること、包装箱を上から見ると、半分が濃い色で、半分がそれより薄い色であること、包装箱を正面から見ると、アロエの絵と同一書体の「BODYSOAP」の文字が見えること、包装箱に窓が開けられ、そこから、「BODYSOAP」と「ボデイソープ」の違いはあるものの、同一の称呼、観念の文字が見えること、包装箱の側面には、アロエの絵が印刷されていること、包装箱の大きさは、ほぼ同じ大きさであることなど、共通点が多いから、原告製品の包装箱と被告製品の包装箱は、類似しているということができ、それらを別々に見た場合には誤認混同のおそれがあるものというべきである。したがって、被告製品が包装箱に入れて展示されていたとしても、一般消費者が、原告製品と被告製品を誤認混同するおそれがあるものというべきである。

七  請求原因7(原告の営業上の利益の侵害)について

原告は、原告製品を製造販売しているのであるから、これと容器の外観が類似し一般消費者をして誤認混同を生じさせる被告製品が製造販売されたことにより、営業上の利益を侵害されたものと認められる。

八  差止請求について

以上のとおり、原告は、被告らの不正競争行為によって営業上の利益を侵害されたのであるが、右四で認定したとおり、被告らは、平成四年一二月に、被告製品の製造販売を中止して、金型も廃棄し、平成五年一月からは、容器の外観を変更した新製品を製造販売していることが認められるから、原告は、被告製品の製造販売によって現に営業上の利益を侵害されていないことはもとより、将来において営業上の利益を侵害されるおそれがあるとは認められない。したがって、原告は、被告らに対し、被告製品の製造販売等について差止請求権を有するとは認められない。

九  請求原因8(原告の損害等)について

1  証拠(証人神崎友次、被告日本ランウェルの代表者(第一回))によると、被告日本ランウェルの代表者は、原告製品の容器を参考にして、被告製品の容器のデザインを考え、被告日本コルマーに、被告製品の製造を発注したことが認められるのであり、この事実に、右三で認定したとおり、原告製品の容器は、被告らが被告製品の製造販売を開始した平成四年三、四月ころには、既に広く知られていたことを総合すると、被告らには、故意又は少なくとも過失があるものというべきである。したがって、被告らは、原告に対し、被告らの不正競争行為によって原告が被った損害を賠償する義務がある。

2  そして、前示のとおり、原宿泊施設等の利用者を中心とした一般消費者を対象とし、被告製品も宿泊施設等の利用者を含む一般消費者を対象としているので、両者は対象を共通にしている。また、両者について誤認混同のおそれがあったことは、前示のとおりである。したがって、不正競争防止法五条一項により、被告らが得た利益の全額をもって、原告が受けた損害の額と推定することができるものというべきである。

3  そこで、被告が被告製品の製造販売によって得た利益の額について判断する。

(一) 証拠(甲三四、三五、四〇)によると、被告日本コルマーは、平成四年三月から平成四年一二月までの間に、被告製品を合計一二万一三二一個製造し、それを、被告日本ラレウェルに販売したことが認められる。

原告は、被告日本コルマーは、被告製品の製造販売により、一本当たり少なくとも二〇〇円の利益を得ている旨主張する。そして、証人志水千博は、被告日本コルマーの被告製品の平均販売価格は一本当たり六九一円であるところ、その製造原価は一本当たり四〇〇円を下回らず、一般管理費は、せいぜい一本当たり五〇円であるので、被告日本コルマーは、被告製品の製造販売により、一本当たり少なくとも二〇〇円の利益を得ている旨証言し、甲三七(志水千博の陳述書)にも、同旨の記載がある。しかし、証人志水千博は、右の製造原価及び一般管理費について、その具体的な算定根拠を何ら示しておらず、経験に基づく推測であると証言するのみである上、原告製品については、製造原価及び一般管理費は、右の金額を上回る旨証言しているから、右の利益の額については、直ちに信用することができない。なお、証人志水千博は、原告製品は、パームオイルを主原料として製造しているので、製造原価が高くなる旨証言するが、その証言はあいまいで具体性に欠ける上、これに反する証人神崎友次の証言に照らしても、証人志水千博の右証言を直ちに信用することはできない。

一方、証拠(丙一、証人神崎友次)と弁論の全趣旨によると、被告日本コルマーは、被告製品を製造販売することにより、少なくとも一本当たり三四円の利益を得ていたことが認められる。

そして、他に、被告日本コルマーが被告製品を製造販売することによって右三四円を上回る額の利益を得ていたことを認めるに足りる証拠はない。

よって、被告日本コルマーが被告製品を製造販売することによって得た利益の額は、三四円に一二万一三二一を掛けた四一二万四九一四円であると認められる。

(二) 証拠(甲三四、四一)によると、被告日本ランウェルは、平成四年四月から平成四年一二月までの間に、被告製品を、合計一一万四二三二個販売し、その売上金額の合計は、一億一七五八万六〇六二円であることが認められる。

原告は、被告日本ランウェルは、被告製品の販売により、一本当たり少なくとも二〇〇円の利益を得ている旨主張する。そして、証人志水千博は、被告日本ランウェルは、被告日本コルマーから、被告製品を平均一本当たり六九一円で仕入れ、一本当たり平均一二八〇円で販売しているところ、一般管理費は、せいぜい一本当たり一〇〇円であるので、被告日本ランウェルは、被告製品の製造販売により、一本当たり少なくとも四八九円の利益を得ている旨証言し、甲三七(志水千博の陳述書)にも、同旨の記載がある。しかし、証人志水千博は、右の一般管理費について、その具体的な算定根拠を何ら示しておらず、経験に基づく推測であると証言するのみである上、原告製品については、一般管理費は、右の金額を上回る旨証言しているから、右の被告製品の利益の額については、直ちに信用することはできない。

一方、証拠(乙一九、被告日本ランウェル代表者(第二回))によると、右の売上金額からその仕入価格等を差し引いたものから、右の売上金額に被告日本ランウェルの右の期間の全売上額に対する販売費及び一般管理費の割合(二五・三二パーセント)を掛けたものを差し引き、右の売上金額に同被告の右の期間の全売上額に対する営業外収益の割合(〇・〇三パーセント)を掛けたものを加え、右の売上金額に同被告の右の期間の全売上額に対する営業外費用の割合(二・二五パーセント)を掛けたものを差し引いて、被告製品を販売したことによる利益の額を求めると、六三一万六〇八八円となることが認められる。

そして、他に、被告日本ランウェルが被告製品を販売することによって右の六三一万六〇八八円を上回る額の利益を得ていたことを認めるに足りる証拠はない。

よって、被告日本ランウェルが被告製品を販売することによって得た利益の額は、六三一万六〇八八円であると認められる。

一〇  請求原因9(謝罪広告)について

右六4認定のとおり、被告製品の小売店における販売価格は、原告製品よりも廉価であることからすると、被告らの不正競争行為により原告製品と被告製品を誤認混同した消費者が、原告製品が、不当に高い価格で、宿泊施設等の売店や通信販売の方法で販売されているとの誤解を抱くことがあるものと認められ、証拠(甲二二、三七、証人志水千博)によると、現にそのような苦情が原告に対して寄せられているものと認められる。このことは、原告の営業上の信用を害するものということができ、原告の信用を回復するためには、被告らに対して、謝罪広告を命ずる必要性があるものというべきである。そして、右信用毀損の態様や被告らは平成四年一二月に被告製品の製造販売を中止していることを考慮すると、別紙謝罪広告目録(二)記載の謝罪広告を、標題並びに原告及び被告の各社名を四号活字とし、その他を六号活字として、朝日新聞(全国版)、中日新聞(本版通し)及び読売新聞(全国版)に各一回掲載することを命じるのが相当であると認められる。

第五  総括

以上の次第で、本件請求のうち、損害賠償請求は、被告日本コルマーに対しては、四一二万四九一四円及びこれに対する不法行為の結果発生後である平成六年九月二九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、被告日本ランウェルに対しては、六三一万六〇八八円及びこれに対する不法行為の結果発生後である平成六年九月二九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、謝罪広告の請求は、別紙謝罪広告目録(二)記載の謝罪広告を、標題並びに原告及び被告の各社名を四号活字とし、その他を六号活字として、朝日新聞(全国版)、中日新聞(本版通し)及び読売新聞(全国版)に各一回掲載することを求める限度でそれぞれ理由があるので、この限度で認容し、その余の請求は、いずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき民事訴訟法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 森義之 裁判官 田澤剛)

(別紙)

物件目録

容器の外観が添付の写真のとおりの合成樹脂製容器に入った液体石鹸

〈省略〉

撮影年月日 平成4年6月30日

撮影者 原告代理人

〈省略〉

(別紙)

謝罪広告目録(一)

謝罪広告

弊社は、名古屋市中区栄五丁目八番二八号株式会社フタバ化学が製造し販売している「リーブルアロエボディソープ」に類似する液体石鹸を製造販売し、右フタバ化学の製品と誤認混同を生ぜしめる行為を行い、同社の信用を毀損致しました。

右事実についてここに掲載致しますと共に、株式会社フタバ化学に対し謝罪の意思を表します。

平成 年 月 日

東京都豊島区南大塚二丁目一〇番二号

日本ランウェル株式会社

右代表取締役 山川弘

大阪市中央区伏見町四丁目四番一号

日本コルマー株式会社

右代表取締役 神崎茂

(別紙)

謝罪広告目録(二)

謝罪広告

弊社は、名古屋市中区栄五丁目八番二八号株式会社フタバ化学が製造し販売している「リーブルアロエボディソープ」に類似する液体石鹸を平成四年一二月まで製造販売し、右フタバ化学の製品と誤認混同を生ぜしめる行為を行い、同社の信用を毀損致しました。

右事実についてここに掲載致しますと共に、株式会社フタバ化学に対し謝罪の意思を表します。

平成 年 月 日

東京都豊島区南大塚二丁目一〇番二号

日本ランウェル株式会社

右代表取締役 山川弘

大阪市中央区伏見町四丁目四番一号

日本コルマー株式会社

右代表取締役 神崎茂

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